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暗号理論(7) ~ デジタル署名 ~

暗号技術入門 第3版

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暗号技術のすべて

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デジタル署名とは

前回の記事では, メッセージ認証コードの話をしました. メッセージ認証コードを使用することで, 送信データが改ざんされていないか, あるいはなりすましされていないかということを検証することができました.
しかし, メッセージ認証コードだけでは第三者に「このデータはこの人が送信したものだ」と証明することはできません. さらに, 否認を防止することもできません.


そもそもメッセージ認証コードでは, なぜ第三者への証明や否認を防止することができないのかというと, 二者間で「同じ共有鍵を使用しているから」です.

では, どうしたら第三者に対して証明できたり, 否認を防止することができるのでしょうか.


それは, 送信者と受信者で「違う鍵を使用する」ことで可能になります.

ここからは従来のやり方に沿って, AliceとBobのやり取りを例に説明していきます. AliceがBobにデータを送信する場合を考えましょう.
Aliceさんは事前に公開鍵と秘密鍵を用意しておきます. 次にBobさんに送信したいデータを秘密鍵で「署名」します(署名は「暗号化」と置き換えてもらっても構いません). 続いて, もとのデータと「署名」したデータをBobさんに送信します.
Bobさんは, これらを受け取り, さらにAliceさんの公開鍵を取得します. Bobさんは公開鍵を用いて署名されたデータを「検証」します(検証は「復号化」と置き換えてもらっても構いません). その結果, もとのデータと検証したデータが一致すれば, そのデータはAliceさんが送信したものだと確認することができます.


ここまではメッセージ認証コードの仕組みとそんなに変わりませんね. でもここからがメッセージ認証コードとデジタル署名の大きな違いです.

では, Bobさんが受け取ったデータが本当にAliceさんのものであるかを第三者に証明するとしましょう. どうしたらいいでしょうか.



簡単なことです. Aliceさんが送信したデータを, 検証する第三者Victorが受け取り, Aliceさんの公開鍵で正しいデータかどうかを実際に検証すればいいだけなのです.

ではどうしてVictorはそのデータがAliceさんが送信したものだと証明できるのでしょうか.


それは, 「署名データはAliceさんにしか作り出せない」からです.

秘密鍵を持っている人にしか, デジタル署名を施すことができません. なので, その人の公開鍵で実際に検証が成功すれば, データの送信者を一意に特定することができます.



これまでの記事を読んで理解が深まっていらっしゃる人は, デジタル署名の仕組みについて何か気づいたかもしれません.


デジタル署名は, 「公開鍵暗号方式と逆の関係」であるということが言えます.

公開鍵暗号とデジタル署名

公開鍵暗号方式については以下の記事を復習してください.
tomonori4565.hatenablog.com

公開鍵暗号方式では, 公開鍵を暗号化に使用し, 秘密鍵を復号化に使用していました.
デジタル署名では逆の関係になります. 秘密鍵を署名(暗号化)に使用して, 公開鍵で検証(復号化)するのです.

ここで, なぜ暗号化が署名の作成に相当して, 復号化が署名の検証に相当するのかを考えてみましょう.

公開鍵暗号方式の記事でも説明したように, 公開鍵と秘密鍵は「数学的に深い関連をもつ」鍵ペアでなければいけません. よって秘密鍵で暗号化した暗号文は, その秘密鍵とペアになっている公開鍵でしか復号化することはできないのです. そして, 正しく復号ができていれば, その公開鍵と対になっている秘密鍵で暗号化されたんだということがわかりますね.


以上からもわかるように, デジタル署名は, 「公開鍵暗号方式と逆の関係」であるということが言えるのです.

デジタル署名の方法

ここからは, どのようにデジタル署名が施されるかということについて説明していきます.

主に2通りの署名方法があります.
(1) メッセージに直接署名する方法
(2) メッセージのハッシュ値に署名する方法

今回は, 主に使用されている「(2) メッセージのハッシュ値に署名する方法」について解説していきます.

メッセージのハッシュ値に署名する方法

ここでもAliceさんがBobさんにメッセージを送信する場合を考えましょう.

以下に署名の流れを示します.

(こちらのサイトに乗っている図が参考になるかもしれません. )
www.infraexpert.com


(1) まず, Aliceさんはメッセージのハッシュ値を計算します.

(2) 次にAliceさんはハッシュ値秘密鍵で署名(暗号化)します.

(3) Aliceさんは, もとのハッシュ値と署名データをBobに送信します.

(4) Bobさんは, 受信した署名をAliceの公開鍵で検証(復号化)します.

(5) Bobさんは, 検証データとハッシュ値を比較して, 一致するかどうかを確認します. 一致すれば検証成功です.


このような流れになっています.

デジタル署名に対する攻撃

man-in-the-middle攻撃

公開鍵暗号方式では, man-in-the-middle攻撃が脅威となりましたが, デジタル署名に対しても脅威となります(公開鍵暗号方式の逆の関係なので想像はつくと思います).

man-in-the-middle攻撃を防ぐには, 公開鍵が本当に正しい相手のものなのかを確認する必要があります. 例えば, 入手した公開鍵がAliceさんのものであるか, Bobさんが確かめるとしましょう. BobさんはAliceさんに電話をかけ, 自分が持っている公開鍵が本当にAliceさんのものなのかを確かめることができます.

では電話などでチェックできない場合はどうしたらいいのでしょうか. それは, 次回の記事で紹介する「証明書」で説明します. 証明書を用いれば, 公開鍵が正しいものかどうかを証明することができます.

デジタル署名を駆使した公開鍵暗号方式に対する攻撃

RSA暗号を用いでデジタル署名を作成しようとすると, 以下のようになります.


  m^d \ \  mod \ \  N

これは, 公開鍵暗号方式における復号操作となります. この仕組みを利用して, 公開鍵暗号方式を攻撃することができます.

攻撃者Malloryは, AliceとBobの通信を盗聴しています. Malloryはこのやり取りの内容を解読したいので, Bobにこんなメールを書きました.

Bobへ,
現在デジタル署名の実験をしているのですが, 添付データにあなたの署名をつけて返信してください.
添付データはランダムなので問題は発生しません.
Malloryより.

BobはMalloryのメールを読んで, 添付データを閲覧しましたが, メールの本文の通りランダムなデータに見えます.
しかし実際には, 添付データはAliceがBobの公開鍵で暗号化した暗号文なのです. 当然, Bobが署名をしてしまうと, もとのデータが復元されてしまうことになります.

このデータをうっかりMalloryに返信してしまうとさあ大変. Malloryは何も苦労せず平文をGetできてしまうのです. Bob本人に復号化をさせるという大胆な方式ですね.

これを防ぐには, まず公開鍵暗号方式で使用する鍵ペアと, デジタル署名で使用する鍵ペアを分けておく必要があります. 他にも, メッセージに直接署名するのではなく, ハッシュ値に署名をするなどの対策が考えられますが, 何と言っても一番の対策方法は, 意味不明なメッセージにはデジタル署名をしないということです.

デジタル署名では解決できない問題

デジタル署名によって, 改ざんやなりすまし, そして第三者に対して「このデータはこの人が送信した」ということを証明できたり, 否認防止が可能になったりします.
これで悪意ある第三者からの攻撃が来ても安心 ...



...とはなりません. 前にも言いましたが, 絶対安全な通信手段はまだまだ確立されていません.



本記事の途中でも言いましたが, デジタル署名において, 受け取った公開鍵というのは本当に正しい相手のものでしょうか. もしかしたら悪意ある攻撃者Malloryが勝手にすり替えた公開鍵かもしれません. 次の記事において, 「証明書」について説明しますが, これは受け取った公開鍵が本当に意図した人物のものなのかを確認することができます.